ドイツのビーレフェルトで2025年9月3~5日に開催されたThe 29th Workshop on the Semantics and Pragmatics of Dialogue (SemDial2025) に,銭本(D2)と津田(M1)が参加しました.
基本情報
SemDialは,対話の意味論や語用論に関する国際ワークショップです.今年は,ドイツのビーレフェルト大学で開催されました.ロング/ショート全体で38件の論文が採択され,ロングペーパーの採択率は58.6%(=17/29)でした.

自身の発表
銭本は,2日目のオーラルセッションにて,雑談の中で所望の質問を自然に尋ねることで,対話中にアンケートを実施できる対話システムに関する研究発表を行いました.人間評価実験と実証実験を通して,提案システムが紙のアンケートと類似した回答を取得できることを示しました.
Automated Administration of Questionnaires during Casual Conversation using Question-Guiding Dialogue System Proceedings Article
In: The 29th Workshop on the Semantics and Pragmatics of Dialogue, pp. 115–124, 2025.

津田は,3日目のオーラルセッションにて,話者間の関係性に着目したマルチパーティ雑談対話コーパスの構築に関する研究発表を行いました.構築したコーパスを用いて,対話における関係性の表出度合いや,人間と大規模言語モデルの話者間の関係性の捉え方の違いについて分析し,その結果について説明しました.
Constructing a Multi-Party Conversational Corpus Focusing on Interlocutor Relationships Proceedings Article
In: The 29th Workshop on the Semantics and Pragmatics of Dialogue, pp. 193–202, 2025.

基調講演
- The Many Reasons for Repetition in Dialogue (Arabella SinclairPermalink)
対話における繰り返し(相手の発話と同じ内容の発話を行う)行為の役割とその重要性について紹介する講演でした.繰り返しは,単に相手の発言を理解していることを伝えるだけでなく,子どもが親の言葉を真似して言語を学んだり,第2言語学習者が教師を模倣して流暢さを身につけたりするなど,言語の学習においても重要な役割を持つという点が興味深かったです.また,言語モデルも語や構文を繰り返すことで,人間の対話に類似した繰り返しを行う傾向があるそうです. - Foraging for Common Ground (Robert D. HawkinsPermalink)
共通基盤(Common Ground)に関する講演で,人々は固定された言葉の意味を共有するだけでなく,相手との双方向のやり取りを通じて動的に意味を作り上げていることが説明されました.具体例として,ペアで抽象的な図形を説明し合う実験が紹介され,対話を重ねるうちにお互いだけが分かる独自の言葉を生み出し,コミュニケーションを効率化させていることが紹介されました. - Meaningful Interaction with Unreal Speakers? (David Schlangen)
人格がなく,責任を持つことができない存在である人工知能との向き合い方について説明する講演でした.人同士のコミュニケーションにおいては,assertion(発言者が責任を負う形で行う主張)が重要とされています.assertionはある程度の正当な根拠に基づいて行われるため,一定の信頼性がありますが,ChatGPTなどのLLMはその発言に責任を持つことができないため,assertionを行うことができません.そのため,LLMの発言を真に受けてしまう人が多いと,社会全体での知識の信頼性が弱まってしまいます.この問題に対しては,LLMがあたかも人格があり,責任ある発言をしているように誤解させる要因(一人称代名詞や,believeやthinkなどの心的状態を表す動詞の使用)を排除することが重要であるとのことです.
気になった発表
- Shaping virtual interactions: F-formations in social VR (Karl Clarke, Patrick Healey)
Social VR(VRChat)空間における対話中の参加者の位置関係(F-formation)を分析し,現実の対話と比較してどのようにF-formationが形成・維持・拡張されるかを分析した研究です.Social VR空間では,過度な身長差を埋めるために空間中の段差を利用したり,鏡越しに対話相手と目線を合わせて会話するなど,Social VR空間独自のF-formationを形成するそうです.
おわりに
今回の会議は比較的小規模であったため,一人当たりの発表や質疑の時間が長めに設けられていました.これは,個々の研究内容への理解を深める上で大きな利点であったと感じます.我々の研究に対しても多くの質問,活発な議論をいただき,大変有意義な参加となりました.

